文芸誌「婦人文芸」

「婦人文芸」は、戦前の商業雑誌「婦人文芸」(神近市子発行)の名を引き継ぎ、昭和三十一年に創刊されました。    創刊の日から長い年月が経ちましたが、女性の人生に内在する現代社会の真実を見つめ、自分の言葉で表現するという精神を胸に、今も書き続けています。  ともに文芸活動をしませんか? どんなジャンルでもかまいません。意欲のある方、お待ちしています。

最新号「婦人文芸」99号:文芸同志通信より

 

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文芸同人誌「婦人文芸」第99号(東京都) : 文芸同志会通信

 

【「水神の森」都築洋子】

 出だしは日和(ひより)という中学女子学生が、が河川敷の草中に畑を作って暮らすホームレスの老人との出会いからはじまる。であるが、話の主体は、子供たちが育つ環境に事情があって、両親から離れて暮らす公的な児童養護施設での生活である。とくに、そこで育って、社会に出るため、就職や高校進学の問題を抱える人々の生活ぶりが描かれている。自分は、かつて「居場所なき若者たち」というテーマで、「もやい」というNPO団体を通して、彼等の生活ぶりを追った経験がある。また、多摩川河川敷のホームレスの取材もしたことがあるので、畑を作って作物を栽培しているところは多い(管理は国土交通省の国有地的場所であるが)。彼等の厳しい環境について作者が、かなりの知識があることがわかる。このような事柄は、小説化することでしか詳しく語れない面がある。また、日和がホームレスに関心を持つのも、いずれは施設を出て生活しなければならない自身の身の上と重なるのか、と思わせた。

 それが、ここでは、ホームレスの語る水神の化身である蛇の登場と結び付けられ、小説の全体の形式に幻想味を付加している。現実は、恵まれない境遇の人々の知れば涙の出るような辛い世界をまろやかに表現することに成功している。

【「義母と暮らす」粕谷幸子】

 語り手の義母は、区会議員をしている。その嫁として、議員のどのような生活になるかが、具体的に描かれている。なかで、作家・佐藤愛子氏のことが出ているので、実話に近いということがわかる。佐藤愛子氏の全盛期を考えると、おそらく昭和時代のように感じる。いずれにしても、嫁が義母の選挙活動に巻き込まれるという興味深く面白い話である。

【「ピエロの涙」斉藤よし子】

 平凡な家庭の主婦生活を送ったと思っているオリエが、思い出のテープを再生して昔を懐かしむ。それは、アレンという若者に英会話教師との交流のひとつが録音されている。それはオリエの30代の主婦の時のことで、アレンに恋心を抱いた忘れられない思い出である。そのなかで、結婚相手に抱く愛情と恋愛との異なる部分を、過去の思い出の中に、浮き彫りにしている。よくある出来事もそれぞれかけがえのない色合いをもつ。純粋の愛を求める女性の適わぬ想いの悲しみをひそかに抱く情念を描く。

 このほか、本誌には充実した多くのエッセイがある。

【「老い」駒井朝】における、人は必ず死ぬということの「必死」のおだやかさ生活。【「ロダン美術館にて人形について考える」森美可】は、ロダン肉食男子的な体質と自分の母親の日本人形作家の比較から民族の感性を比較する、文化論になっている。【「いくつになっても姉と妹(7)」秋本喜久子】などは、長編小説的描写力がある。日本文学は、こうした文学批評味わいを持った、新しい文学スタイルの誕生を予感させる。

発行所=〒東京都品川区小山7-15-6、菅原方。「婦人文芸の会」bi